Guemesia ochoai は、2022年にアルゼンチン北西部・サルタ州のロス・ブランキトス層から発見された新属新種のアベリサウルス科の肉食恐竜です。特徴的なのは、現在知られているアベリサウルス類の中では最小級の個体であること。そして、研究史上初めて同地域から見つかったアベリサウルス科化石として注目されています。
発見と命名の背景
- ホロタイプ(IBIGEO‑P 103) は、ほぼ完全な脳函(頭蓋底を含む脳殻)が保存されており、脳腫の形態など精緻な研究が可能でした。
- 属名 “Guemesia” は、アルゼンチン北西部を守った独立戦争の英雄 Martín Miguel de Güemes に、種小名 “ochoai” は発見者である Javier Ochoa 技術者にちなむ命名です。
アベリサウルス類の中でも際立つ特徴
- ・アベリサウルス類特有の極端に短い前肢(ティラノ以上に短いとも)を持っていました。「腕なし」的見た目から、「armless dinosaur」とも報じられました。
- 頭蓋構造には、薄い頭頂骨や角や隆起がないフラットな頭骨形状など、系統的には原始的な特徴が混在していたと報告されています。
分類と系統的位置
- アベリサウルス科の中でも、Brachyrostra(ブラキロストラ) という派生的なグループに位置付けられています。
- 同時代の同地域に獣脚類 Unquillosaurus や、巨大竜脚類とされる標本も知られており、北西アルゼンチンにも多様な恐竜相があったことがわかります。
生態と行動の可能性
小型である一方、頭部に頼る捕食スタイルだった可能性が高く、肉食恐竜としては比較的頭部重視の狩猟戦略だったと想像されます。
前肢が短いため、頭や顎による体当たり型の仕留め方や強力な咬合による仕留め方が主だったと考えられています。
なぜ注目されるのか?
北西アルゼンチン初の確定的アベリサウルス科化石であり、地域の古生態系を新たに理解させる重要標本です。
アベリサウルス類の進化過程や多様性、特に「原始的な特徴と派生的特徴の共存」を示す好例です。
“小型アベリサウルス”として知られる現生種の例は限られており、アベリサウルス科の進化におけるサイズ変異や生態適応の幅を広く示唆しています。
まとめ:小さな頭蓋に詰まった大きな意義
Guemesia ochoai は、約7,000万年前(カンパニアン後期)にアルゼンチン北西部で生きた小型アベリサウルス類であり、脳函のみながらも、地域・系統・生態すべてにおいて重要な証言を残す恐竜です。
ドクターラプトルとしては、恐竜学における“発見の地理的偏り”を解消する第一歩であり、南米における未解明ゾーンでの恐竜発見の可能性が一気に開かれたと思っています。今後、同地からの全身標本や他の恐竜群との共存証拠が発見されれば、Guemesia は南米古生態系のキー種となることでしょう。
今後の展開への期待
- 完全骨格の発見による体型・前肢・脚部の復元。
- 同層からの他の恐竜との共存関係や食物連鎖の再構築。
- アベリサウルス類における進化の初期段階や移動パターンの研究といった展望が開かれています。
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